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座談会「リスク管理とエンジニアリング環境」
出席者
池田 幹男:横河電機
川村 理:三菱化学
白川 公一:千代田化工建設
萩野 昭子:シュアティ
林 功:山武産業システム
司会
和田 哲也:イーシーコム
2000年1月
池田 幹男:横河電機
川村 理:三菱化学
白川 公一:千代田化工建設
萩野 昭子:シュアティ
林 功:山武産業システム
司会
和田 哲也:イーシーコム
2000年1月
キーワード「座談会/リスクマネージメント/保険」
●リスクマネジメントをどう考えるか
司会(和田):イーシーコムの和田(元ジャパンエナジー)でございます。現在,月刊「計装」に連載を書かせていただいておりますが,その中でリスクマネジメントを題材に取り上げたところ,面白そうなので座談会をやろうかという話になり,行きがかり上,私が司会を仰せつかりましたのでよろしくお願いいたします。では最初に「リスクマネジメント」について,今の時点ではこう考えているというところを順番にお聞かせいただいたうえで,各論に入っていきたいと思います。
林:山武産業システムの林です。私はオートメーションアセットマネージメントという部に所属しております。当社では1988年より欧米の安全計装向けのコントローラを販売しており,私の所属する部では自動化資産の最適運用をテーマにリスクマネジメントを安全計装の切り口の一つにしていこうと考えております。
いま安全計装はリスクの評価,それに対する改善提案というリスクマネジメントについては,まだほとんど実践をしていないという状況だと考えています。
プラントを例にとれば,まずプラントの安全面から潜在する危険事象を捉え,それが何を引き起こすかというのがリスクであり,そしてその起こり得る結果を評価し,対策を打つというところが安全計装に求められるのではないか。それがリスクマネジメントではないかと考えています。
池田:横河電機の池田でございます。
日本ではまだ,リスクマネジメントやアセスメントをベースに安全計装システムを構築するということは少ないのですが,ヨーロッパ,東南アジア,中東方面ではリスクマネジメントやアセスメントをしながら安全計装を構築するという動きが強まっています。そういう観点から2年半ほど前にオランダのGTI-IAという会社を買収し,Yokogawa Industrial Safety Systems(YIS)を設立いたしました。そういういきさつでわれわれも安全計装システムを中心にビジネスを考えております。
リスクマネジメントというのは非常に幅が広く,一番重要なのは,先ほど林さんも言われたようにアセスメントであろう。どうやってプラントのハザードを見つけ,そのリスクを分析し,どう対策を打つのか。その対策を打つというところがまた非常に広い。システムを導入するだけではなく,安全の妥当性評価あるいはドキュメント管理といったことも総合的に含む意味で,リスクマネジメントという広い言葉が使われているのではないかと考えております。
司会:いまはどちらかというとベンダさんの立場から伺いました。エンジニアリングメーカは,ベンダさんとプロセスの装置産業とのちょうど間にいらっしゃるわけですが,その観点から,白川さん,いかがでしょうか。
白川:千代田化工建設の白川です。
プラントの設計安全という話では全くベンダさんのお話のとおりです。エンジニアリング会社としまして,プロジェクト遂行時にはリスクは何か,その程度は,リスクの回避・低減策はといったプロジェクト成功のカギになりますので,基本的に行うわけです。
また有限なリソースをいかにうまくバランスさせるかという意味のリスクマネジメントも遂行上しています。
セーフティ以外の動向としましては,海外プロジェクトでオファーするお客様にプラントライフサイクルを通しての最適化という要求が出てきています。ではプラントライフサイクルをどうやって評価し最適化しますかという話のときに,例えばメンテナンスでいけば,いわゆるRCM(Reliability Centered Maintenance)とか,Reliability Based Inspectionとか,まず対象機器の機能を認識し,重要度を認識する。この場合,HSE:Health・Safety・Environment+Economyの4つの観点から重要度を同定します。その機器が壊れたら,運転上大きな支障をきたすとか,スペアパーツがなかなか手に入らないとか,安全上非常に被害が大きいとか,その重要度をアセスし,それに対して例えば検査頻度を上げたり冗長化したりする。要するにメンテナンスも含めて初期コストと運転コストのバランスを取り,ライフサイクル全体で最適化を図るといった要求があります。
そのときにやはりリスクとリライアビリティという概念が基本となります。リスク・リライアビリティという切り口で重要度をアセスし,全体のバランスをとっていく。安全も考え方としてはその中の一部といったアプローチがあります。
では日本の風土の中にリスクとかリライアビリティとかいう概念がどこまで受け入れられるのか,それがよく分からない点です。
司会:いま白川さんの言われたところが,今日の一つのポイントになるのではないかと思っています。私の経験でも,山武さんと横河さんから出たように,海外プロジェクトの中でのリスクマネジメントがありました。そういう点で今日は日本のプロセスインダストリーの代表として川村さんにお越しいただいていますので,ここで川村さんのご意見をお願いします。
川村:三菱化学の川村です。
私は3つの観点からお話ししたいと思います。
まず,われわれ化学産業がいま置かれている立場は,社会からアゲンストの風を受けています。アゲンストというのは,環境問題,物質の問題など,いろいろなことで話題に挙がっています。それをどう解決していこうかというのが,企業の大きな命題の一つだと思います。
ですから,リスクをどう評価し,どう対応するのか重要な課題です。先ほど白川さんがお話にありましたHSEはいま,欧米の化学企業のメインのテーマとなっています。日本もこうなっていかなければいけない。そういう面で私どもは,環境安全に対してこういう活動をしていますと,社会一般にも公表しているわけです。
2つ目としては,プロセスの安全という面で考えているのは,先ほど安全計装という話が出ましたけれども,IEC61508がJIS化されましたので,計装エンジニアとして,これをどう解釈し仕事の中にどう生かしていくのかという,大きなテーマがあると思います。
それからもう1つは,産業情報化中で,DCSなどがネットワーク上でオープンになってきている。そうすると,サイバーテロとかいった問題を現実に心配しなければいけない。企業を守るという意味では,それも一つの大きなリスクだろうと思います。たまたま私は,一昨年から通産省主導で大規模プラントのネットワークセキュリティの問題をやっておりますが,ネットワーク化によるリスクも計装エンジニアの重要なテーマではないかと考えています。
リスクといったことを身近な例でお話しすれば,たまたま私は2000年問題(Y2K問題)をずっとやってきているのですが,リスクをどう考えて,それに対して企業としてどう対応していくかという意味で,これはいい命題であったと思っています。要は,ありそうもないことをどう評価し,その影響度をどう考えていくか,Y2K問題に取り組んで,日本企業としてはその考え方がずいぶん参考になりました。リスクマネジメントはやはりそういう観点から見ないと,現実にあるものだけを見ていたら片手落ちになるのではないかと考えています。
司会:今日はいろいろな業界の方に集まっていただいているようにみえるのですが,ほかの分野の方からみるとほとんど同じ世界のエンジニア,マネージャの方ということになると思いますので,今日は特別に萩野さんにお越しいただきました。
萩野さんはもう十何年も前から,青山学院の武井先生やほかの皆さんと一緒にリスクマネジメントについてずいぶん研究しておられる保険コンサルタントという,全く異なった分野の方ですから,今日は新しい風を入れていただけるのではないかと思います。
萩野:シュワティの萩野です。
リスクマネジメントというのはアメリカでも保険の学問として発達したものですから,保険業界の中ではリスクとリスクマネジメントは何たるものかというのは一応,学問的な定義はできております。
皆さまよくご存じのように,リスクマネジメントの定義とはリスクを確認し,測定して,それを処理して解決することです。
では処理というのは何をするのか。それはリスクの回避・制御・保険以外の移転・保険・保有の5つの基本的技術のことです。発生するリスクに備え財務上どうするか,外部に移転するのか,保有するのか,保険を付けるのか。ここで保険会社がリスクマネジメントに目を付け大きく乗り出してきたわけです。
リスクマネジメントを日本語で「危機管理」と訳すと「リスク」の概念が英語とあまりにも違ってしまいます。ですから「リスク」をどう訳し,どう考えたらいいのか,いつも議論になってきました。私はリスクマネジメントをアメリカで学んできた学者の方々と勉強しているうちに,リスクマネジメントは保険の中だけではない,これはちょっと違うのではないかというふうに考え出したのです。
最近になってやっとISOの取り組みから,リスクマネジメント用語やシステム規格もJIS化することが検討され開発されてきました。リスクというと,リスクマネジメントという概念の多様性から各業界によってみな違います。石油業界には石油業界固有のリスク,保険業界には保険業界が考える独自のリスクがあり,みな違うリスクを考えています。もちろんリスクは違うのですが,スタンダードなものがなければいけないということです。
それで今日,非常におこがましかったのですが,リスクとリスクマネジメントの概念を一つにするために,日本語にしてしまうと概念が違ってしまうので英語で,「ISO/TBMKリスクマネジメントの用語法ワーキンググループ」によって開発された図を持ってきました(図1,図2参照)。
図のように仕分けしても,リスクとはいったい何であろうかというのが,いつも問題になって業界の中で語られるわけですが,私がみるところ,リスクマネジメントの最先端といえばプラントの業界の方々で,すでにリスクの何たるかを考えて実行しておられるので,今日は逆に勉強に伺いました。
司会:考えてみますと,リスクという言葉を日本語でどう訳したらいいか………。
萩野:リスクマネジメントも訳しにくいですね。今日は英語で書いてきましたけれども,分析とか評価・対応・監視・見直しコミュニケーションなどなど……。
白川:概念自体がないのだと思います。
ISOに日本語訳がありますが,ISOの日本語訳で本当に伝わるのだろうか。国際化の中では,言葉の定義をはっきりさせましょう,そうしないと話がかみ合わない,というところからスタートするわけですが,国際規格を日本語に訳した途端に,日本語になかった概念だと伝わらないわけです。
林:そうですね。たとえばIEC 61508は機能安全規格といわれているものですが,そのベースとなるリスクマネジメントの基本概念というのは前提であり,それを使ってどうするかという,さらにその先の話をしているわけです。従ってリスクについてまだよく理解していない私たちが,そのうえにさらに機能安全の規格だ何だといっていくと,ますますわからなくなってしまう。したがって,リスクというものを正しく理解し扱っていくのが今後の重要な課題だと思っています。
